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【マンスリーレポート】IFA太田氏のマーケットの振り返りと見通し(2023年5月号)



Monthly 10月号


資産運用立国を目指す日本、そしてちょっとだけ相場観


 9月22日付けの日経新聞朝刊によると、岸田首相は9月21日(米国現地時間)、米ニューヨークで投資家向けに講演し、日本の資産運用業への海外からの参入を促進することを表明した。世界中から腕利きのファンドマネージャーを呼び込もうということのようだ。(10月1日 文責太田)



日本の資産運用の現実


資産運用業界に海外からの参入を促進するということは、岸田首相が掲げる「資産運用立国」「資産所得倍増プラン」の実現を後押しする狙いのようだ。これは資産運用業界の競争を促し、その結果、個人の資産を増やせる可能性が高まるのかもしれない。ただ、個人的な感想として、この計画は、日本の国内資産運用業界の現状が「実力不足」と岸田首相に言われたようなものだ。

早速、金融庁が今年4月に出した「資産運用業高度化プログレスレポート」を斜め読みしてみた(20230421_1.pdf (fsa.go.jp)。 日本の運用資産は約2兆ドル(約300兆円)、米国は28兆ドル(4200兆円)で米国の約14分の1しかならない。一方、ファンドの本数は1万4000超、米国は約1万本、米国より4割ほど多い。1ファンドあたりの運用資産は、日本は1億4000万ドル、米国は28億ドル、つまり米国の約20分の1しかない。日本は全体の運用資産が少ないばかりか、小さい規模のファンドが乱立している状況と言える。

この主な原因は、証券会社やメガバンクなど投資信託の販売会社が、手数料をかせぐために販売しやすい商品ばかりをグループ傘下の資産運用会社に作らせてきたことにあると金融庁のレポートでも言及している。さらに、その時々で話題性のあるテーマや短期的に値上がりが期待できるテーマで資産運用会社に商品を作らせ、販売開始と同時に営業攻勢をかけ大量に売りさばき、話題性が乏しくなるとすぐに次の商品に切り替える、ということを繰り返してきた。ある意味、粗製乱造ともいえる。これが運用の実力不足を招く諸悪の根源、なのかもしれない。



歴史が浅い日本の資産運用業界


歴史的に海外勢と比較すると、日本の運用業界は経験不足、または勉強不足ともいえる。80年代後半、当時日本株はバブル全盛で上昇を続けていたが、筆者は某証券会社の国際部に在籍していたため世界的にも有名な海外の運用会社のファンドマネージャーが来日し、一緒に企業訪問を繰り返していた。筆者が勤務していた証券会社は関西企業に強く、今でもそうだが関西にはユニークな企業が多かった。毎月1週間くらいは関西での企業訪問、残りの数日は東京の企業訪問を繰り返していた。その間日本のファンドマネージャーが企業訪問をしていたなど、訪問した企業から聞いたことはなかった。企業訪問をしなくても株価は上がるので、生保などのファンドマネージャーは、野村のレポートで売り買いしていたのだろう。

また、英国に赴任していたころ、親しくなったファンドマネージャーからはファンド運用の核心になるようなことも教えてもらった。その運用会社は年金運用が中心だったが、彼は具体的に、ポートフォリオの中に核になる銘柄を持つべきだと教えてくれた。核になる銘柄はちょっとのことでは売らないで長期保有する。そして核になる銘柄がポートフォリオのパフォーマンスを助けてくれるというものだった。実際、私の顧客のポートフォリオには核になる銘柄をスタートして以来6~7年保有している。

海外の運用会社は長い歴史をもつ会社が多く、運用を始めて70~80年はザラ、100年以上も多い。したがって、海外の運用会社が多く日本に集まり、その専門性やノウハウを日本のファンドマネージャーも学び、その結果、競争が加速し、個人の資産がもっと増えていくことは歓迎されることでもある。ちなみに私の顧客が保有する投信はほとんどが海外の運用会社の投信であって、国内投信会社の銘柄はほぼゼロ。

先の金融庁のプログレスレポートを見ていくと、日本の投信会社には手痛い指摘が満載状態になっている。「貯蓄から資産形成」を着実に推し進めるには、税制上の優遇措置や金融教育面の後押しのみならず、わが国の資産運用業が専門性と透明性を向上させ、国民の尊敬と信頼を得ることが必要である。 しかしながら、金融庁のプログレスレポートでは、銀行や証券会社など、わが国における運用商品・サービスを提供する金融機関については、時として、販売手数料獲得を目的とした顧客本位ではない 販売行動が見受けられる。などと指摘している。



資産運用と投資の違い


来年から始まる新たなNISA(少額投資非課税制度)を題材に、「長期・積立・分散」という資産運用のスタイルがいかに大切かなどと金融機関の大合唱が想定される。積み立てとは、毎月定額で資産を買っていくという「ドルコスト平均法」のことだ。確かに有益な手法だが、ノーリスクというわけではない。しばしば金融機関は「絶対安全」などというかもしれないが「絶対」ではないのだ。ここではその説明は省略させてもらう。

また、日本の金融機関も「投資」と「資産運用」が同義語に使っている。したがって、2つの言葉の定義を明確にする必要がある。

今回、このレポートを書くにあたり、23年前にファイナンシャルプランナー向けのセミナーで筆者が使ったテキストを開いてみた。2000年2月に、Richard Michel Nash の「資産運用の学校」という本が出版され、筆者はこれを参考に、「資産運用とは行きたいと思っている目的地にどういう方法で効率的に行けるか、その道順を決めるロードマップ」と定義しており、「投資とはそこに行くための乗り物(どの乗り物で行くかの選択)のこと」と定義している。最終的には「資産運用は長期的な展望で考えた総合戦略であって、投資はその計画を実行するための戦術だ」と締めくくっている。

何となく分かりつらいかもしれないが、それぞれ相関性が低い投資対象を選び、それらを合わせてリスクを抑え安全性の高い収益を上げることを資産運用の目的としている。そのため「分散投資」は非常に重要になってくる。代表的な分散投資は株式と債券を組み合わせることで、資産運用では、それらを総合して運用していくことになる。



来年から始まる「新NISA」


2024年には、ポートフォリオとか分散投資といった言葉を今まで以上に耳にするだろう。この年から始まる「つみたてNISA」の拡大とともに、わが国の公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の基本ポートフォリオ改定が予定される年に当たっているからだ。5年ごとに行われる公的年金の財政再計算と政府が作成する中期財政見通しに付随する経済見通しを踏まえて、検討される。毎年できると思うのだが、今のところ財政再計算は5年に一度行われる言わば儀式であり、これに伴って基本ポートフォリオが改定されるのが普通のサイクルなのだ。さて、基本ポートフォリオとしてイメージされるものは、「国内債券25%、国内株式25%、外国債券25%、外国株式25%」といった、アセットクラス(資産分類)とその比率をセットで定めた、いわゆるアセットアロケーション(資産配分)だ。

個人の資産運用では、GPIFのポートフォリオとアセットアロケーションをマネする必要はないが、参考程度に知っておくべきだ。筆者の経験ではポートフォリオのパフォーマンスにとって、厳密な銘柄選択よりアセット(各資産)の配分比率が最も重要だと考えている。つまりアセットアロケーション次第でパフォーマンスが決まると考えている。

 2000兆円を超える日本の個人の金融資産は世界的なインフレ下では実質的な資産は目減りしている。年金などを含む運用業界も新たな改革を必要としている。海外からの「物言うマネー」の力で改革が進むことを期待したい。



ところで9月相場は冴えなかったが


資産運用については、この先何度か説明する機会があると思うので、ここからは9月相場を振り返ってみる。例年9月は低調で、とくにNYダウは突出して下げ率が高いことは、過去の統計が示している。それが象徴的に現れたのが、昨年の9月相場だった。NYダウは昨年1月4日に3万6799ドルの史上最高値をつけたあと、9月30日には2万8725ドルと、約22%の下げとなった。米市場でよく言われるのが「20%下がると、その上昇相場は終わり、売り先行相場が始まる」といわれるが、セオリーどおり、弱気一色となった。

同時に昨年の日経平均は、年初から9月30日の2万5937円まで約12%下げた。ただ、すでに同年の6月20日に安値2万5771円があり、9月は底割れ感はなかった。それでも投資家にとっては嫌な9月相場だったが、NYダウの昨年9月は極めて悲惨ものだったのだ。

昨年の9月相場の下げの要因は、8月20~21日のジャクソンホール会議において、パウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長が超タカ派講演を行ったことで、市場が期待した2023年の利下げ予想は完全に否定され、楽観論は吹き飛んだのだ。

今年は昨年ほどではなくても、さえない9月相場だった。しかし、よくいわれるのは「大統領選挙前年の9月は強い」というが、今年は外れのようだ。その理由は金利高にある。一向に下がる気配のない長期金利を嫌気して株価もさえない。日本株も右に倣えのようだ。

9月月間の騰落率は日経平均がマイナス2.34%、NYダウはマイナス3.50%だった。



金利と株式益利回りでみる米市場


金利と株価の関連性は、投資にとって非常に重要な要素だ。株価と金利を比較するのに、株式の「益利回り」と金利を比べてみる。株式の益利回り=PER(株価÷1株利益)の逆数=1株利益÷株価となる。株価に対して1株利益がどのくらいか、%で示したものを株式の益利回りという。この数値が高ければ、利益に対して株価が低いので株価は割安となる。株式益利回りと長期金利を比較して、株価の現在地をみるのが一般的だ。

このグラフは21年1月から今年の9月22日までである。わずか2年弱のグラフだが、その差が縮小しているのがわかる。ちなみに、その差をイールドスプレッド(10年債利回り-益利回り)という。このグラフの最終日である9月22日のS&P500の予想PER(株価÷1株利益)は19.86倍、このPER の逆数を益利回りになるが、この日の益利回りは5.04%となっている。同時にこの日の米10年債の利回りは4.43%だ。その差(イールドスプレッド)はわずかマイナス0.61%、このグラフのスタート時点でのスプレッドは約3.0%と現在よりかなり大きい。米市場では過去20年のスプレッドの傾向ではマイナス2%からマイナス4%で推移している。21年1月時点はこの範囲内にあるが、現在のマイナス0.61%は非常に株式の割高感が進んでいることを物語っている。ちなみに9月最終日のスプレッドはさらに縮小しておりマイナス0.58%だ。

株式市場に投資をするのであれば、国債などの長期債よりもリスクが高いためリターンが高くなければならない。当然、現在のように長期債と比較して、株式益利回りがわずかに高いだけでは株式相場に投資をするのは賢明ではない。このグラフで差(スプレッド)が縮小していることは株式投資の優位性はないことを物語っている。このスプレッドが拡大するためには、株式の益利回りが上昇するか、10年債利回りが低下するしかない。益利回りとはPERの逆数、つまり1÷PER で、益利回りが上昇するためにはPERが低下しなければならない。つまりPER(株価÷1株利益)を低下させるには、分母の1株利益が増加するか、分子の株価が低下するしかないのだ。

このところのFRB 高官のコメントを見ていると総じてタカ派(金利を下げない)が多い。したがって、しばらくは米金利のさらなる上昇か、または高止まりする時間が当初予想より長くなりそうだ。金利が下がらないのであれば、株価の調整が不可欠の状態が続くことを意味している。



運用のご相談や何かお問い合わせがありましたら、お気軽にK&Cアセットマネジメント株式会社にご連絡ください。kc-asset-management@outlook.jp


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