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【マンスリーレポート】IFA太田氏のマーケットの振り返りと見通し(2023年5月号)

更新日:2023年10月2日

Monthly 5月号



日本株の再評価が始まった!


 どうやら日本株が独り勝ちする時代がくるかもしれない。昨年の超円安時には「日本経済は終わった」といった雰囲気になり、「日本経済一人負け」などの特集を組む月刊誌なども見られた。しかし、ここにきて「日本独り勝ちの時代」というエコノミストが少数派ながら見られるようになった。(5月1日、文責 太田)



4月の8連騰の背景


日経平均は4月18日まで8連騰を記録、さらに28日の日銀政策決定会合後に2万8856円44銭の年初来高値をつけた。これは昨年8月以来の高水準となる。8連騰の背景には3つの要因が挙げられる。そして、そのうち2つは関連づけて議論されている。

1つ目は、4月10日の植田和男・日銀新総裁の記者会見だ。新総裁は注目されている「イールドカーブコントロール」(YCC、長短金利操作)の今後について、諸環境を踏まえると「継続が適当」であると述べた。4月27~28日の金融政策決定会合では想定通りイールドカーブコントロールの変更はなかった。日本のエコノミストの間では、もし修正するとすれば、もっと先だとの見解がもともと主流であり、総裁の発言は驚くことではない。

しかし、海外投機筋の間では「すぐにでもイールドカーブコントロールの修正、あるいは撤廃に動くだろう。それは日本の長期金利が上がるということだから、株安・円高に賭ける」と判断した向きもいたようだ。

そのため植田発言を受けて、アタフタと株の買い戻しや円の売り戻しが行われたと推察している。つまり、植田発言による株高は短期買い戻しの色合いが濃く、持続性が乏しいと最初から判断できたのだ。買い戻しに追い打ちをかけるように、28日の日経平均398円高、円の136円台も海外勢の株買い戻しと円の売り戻しが際立った。

2つ目の要因として、来日していたウォーレン・バフェット氏が、日本経済新聞の単独インタビューに答え、日本株への投資拡大について4月12日付けの一面で取り上げられたことが影響している。

バフェット氏は「投資の神様」「オマハの賢人」とも呼ばれる世界で最も高名な投資家で、その投資手法などを称賛する向きが多いことから、バフェット氏が日本株を買い増すのなら、日本株の特別な買い要因があるのかもしれないと、考えた投資家が多かったのかもしれない。



東証がPBR 1倍割れ企業に警告


このバフェット氏の投資手法による買いは、3つ目の要因と結び付けられている。その3つ目の要因とは、低PBR(株価純資産倍率)企業は経営改革が行われ、その結果、PBRが押し上がるとの期待だ。バフェット氏のインタビューの前の3月末に、東証がPBRの低迷する上場企業に対して改善策を開示・実行するよう要請したことが、企業や投資家に波紋を広げている。東証の要請を受けて、株式市場では「低PBR企業の資本効率や収益性が改善する」との思惑が広がり、海外投資家などから割安株への買いが入る場面もあった。

東証によると、PBRを指標に選んだ理由は、わかりやすさにある。PBRだけでなくROEなども重視しているそうだ。東証が求める改善策の具体的なイメージは「成長投資」「研究開発」「人的資本への投資」などにある。

改めて説明すると、PBRは、株価を解散価値である1株当たりの純資産で割って算出する(株価÷1株当たりの純資産)。つまりPBR1倍割れ銘柄とは株価が会社の解散価値を下回っていることを示し、割安株ともいう。

東証のPBR1倍割れ企業に対する要請の意図は、米国などと比べた日本企業の資本効率や収益性、株価の低さは長年問題視されてきたが、上場企業の企業価値を高める基盤を作ること、それにより投資家にとっての東京市場の魅力が高まることを最大の目的としている。

日本の代表的な企業で構成される「東証株価指数(TOPIX)500」でPBR1倍割れしている企業は40%以上(2022年7月時点)に達している。これに対して米国のS&P500種株価指数の採用銘柄では5%にすぎない。これは、日本企業の収益性または成長性が「市場に評価されていない」ということを示唆している。その背景には、日本の上場企業が投資家の目線を意識していなかったり、それを戦略や情報開示に活用できていなかったりすることがあるとみられる。ちなみにトヨタの連結PBRは0.9倍なのだ。トヨタの場合はPBRの分母である純資産が膨らんでいう資本の水膨れより、むしろ成長不安(PBR とPER の関係は後述するが、同社のPER は10倍で日経平均のそれより低く成長性に懸念)、特にEV 車の出遅れを懸念しているのかもしれない。



PBR とROE


日本企業の株価全般が振るわないときに、必ずと言っても良いほど引き合いに出されるのが平均ROE(自己資本利益率、純利益÷自己資本)の低さである。1990年代以降の日本企業は総じて、資本効率が悪く、米国企業に比べて手元流動性ばかり積み上げていると耳にタコができるほど言われてきた。2020年7月時点で日本企業のROEは5.5%。米国企業のROE は11.9%、つまり米国企業は日本企業の2倍は稼いでいるということになる。

東証はPBR だけでなくROEも重視している。PBRが低いことは、株主から預かった資金(純資産=総資産-負債)に対し、株価が低迷していることを意味する。また、前述のように、純資産は企業の解散価値を示すので、PBRが1倍を割り込んでいる企業に対して、株式市場が「お前の企業は解散価値ほどの値打ちもない」と告げていることに等しい。

PBRとROEを数式で説明すると、「PBR=ROE(自己資本利益率)×PER(株価収益率)」と分解できる。ROEはその企業の現在の収益性を示す。また、PERは企業の先行きの収益成長力が高いと見込まれれば高くなる。すなわち、「日本企業のPBRが低い」ということは「日本企業は現在も将来も収益力がない」と市場が判断しているわけだ。

このROEをさらに数式で分解すると、ROE=当期純利益÷純資産(あるいは株主資本)=(当期純利益÷売上高)×(売上高÷総資産)×(総資産÷純資産)となる。「当期純利益÷売上高」は売上高純利益率、「売上高÷総資産」は総資産回転率、「総資産÷純資産」は財務レバレッジ比率(あるいは自己資本比率の逆数)という。

ROEの3つの構成要件から、経産省資料によると、日本企業(TOPIX500のうち402社の平均)の総資産回転率は欧州企業(BE500社のうち352社の平均)より高く、米国(S&P500のうち366社の平均)と比べても遜色がなく、2018年時点で70%前後である。

また財務レバレッジ比率は日米ともに2013年頃までは250%前後で違いはなかったが、それ以降日本企業の同比率は下がり、2018年時点で240%弱、一方米国企業は同比率が上がり2018年時点で280%強と異なる方向に動いた。

この時期、米国企業は低金利局面が長期化する中でROEを高めるために債券発行や借入金を増やすと同時に、自社株買いが増える傾向が見られた。財務レバレッジ比率の上昇はその結果だと思われる。しかし財務レバレッジ比率の上昇とは、同時に自己資本比率の低下を意味することになる。この日米の異なる動きを、自己資本比率の高い日本企業が健全で米国企業が不健全とはいいがたい。そうすると日本企業のROEの相対的な低さの問題は、売上高利益率の低さにあると特定できる。売上利益率の分子である純利益は売上高(=商品数量×価格)から各種のコストを差し引いた残余である。そして売上高は物価変動、インフレの影響を直接受ける。

実際、日本企業の売上高利益率も2000年代初頭を底に上昇基調にあるが、米国企業の売上高利益率が9%前後である一方、日本企業の同利益率は5%台であり(いずれも2018年時点、日本はデフレの時代だ)、日米の格差は大きい。簿価ベースの純資産に基づいて計算されるROEにインフレ率と高い正の相関関係が生じるのはある意味で当然の理だ。



インフレはROEを押し上げる


日本企業のROEが上昇すれば株価全般に強いプラスの影響を与えると筆者は思う。ただし株価を考える上で重要なもう1つの要因は金利の変化だ。言うまでもなく、米国のみならず欧州でも2021年以降、インフレ率の上昇が中央銀行の目標を大きく上回り、2022年から急速な金利引き上げに転換した。金利の上昇は株価を含む金融資産価格全般を下落させる効果がある。

従って今後日本で脱デフレ、ある程度のプラスのインフレ率が定着する場合ROEは上昇するが、株価への効果は、ROEの向上によるプラス効果と、金利の上昇によるマイナス効果の合計で考える必要がある。プラス効果とマイナス効果を管変えると、マイナス面はある程度克服できるだろう。日本は欧米ほどにインフレ率が高進する可能性は低く、日銀のイールドカーブコントロール(YCC)の修正による長期国債の利回り上昇も、10年物国債の利回り水準は上がってもせいぜい1%~1.5%にとどまると思う。長期債利回りがそこまで上がれば、運用難で買いたい機関投資家はたくさんいるからだ。欧米との金利水準の差は当面続き、株価への影響は欧米と比べても限定的といえる。



底堅くなってきた日本の内需、緩やかなインフレで株価押し上げ


ROEの上昇には景気回復、すなわちインフレ率が深く関係している。足元の日本株堅調の背景にあるのは、ひとことで言えば、「底堅い内需」がある。日本の内需はインフレの打撃も小さい。そしてこの間、賃金上昇率はジワジワと加速しており、個人消費の源泉が確保されつつある。最新の春闘賃上げ率に鑑みると、2023年度の所定内給与(毎月勤労統計ベース、基本給に相当)は2%超の伸びが実現する可能性が高い。

この「快挙」とも言うべき約30年ぶりの賃上げ率が、現役世代の消費心理改善に貢献していることに疑いの余地はなく、消費の追い風になると期待される。そうした中、日本の内需関連株はインバウンドのさらなる回復期待と相まって物色対象となっている。

日本の「底堅い内需」を説明するものとしては、3月のサービス業PMI(購買部協会景気指数)が55.0を記録したことが特筆される。この55.0という数値は2007年9月の統計開始以来2番目に高く、なおかつ現在の先進国の水準を明確に上回っている。

また内閣府が4月10日に公表した3月の景気ウォッチャー調査も内需の底堅さを再確認させる結果であった。現況判断DIは53.3へと1.3pt(パーセントポイント)の改善を示し、先行き判断DIに至っては54.1へと3.3ptも上昇し節目の50を超え、2カ月連続で現状と先行きが共に50を上回った。身近なモノが値上がりし家計を圧迫するいっぽう、コロナ禍において自粛を迫られてきた消費が回復し、景気が改善したとみられる。

また株価についても過去景気ウォッチャー調査が改善傾向にあるとき、日本株が米国株に対して優位となるという一定の関係があり、これで2022年以降の日本株優位を一部説明することができる。

株価が景気ウォッチャー調査に影響を与えているという、逆の因果関係も完全には否定できない。だが、2022年以降の日本経済は米国と比べ方向感が良いのは事実であり、そうした景気認識に基づいて日本株が選好されている可能性が高いと筆者は考える。

もう一つ株価に影響を与える資料が、日銀が政策決定会合終了後に出した「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」では、23年度の消費者物価指数は前年度比+1.8%、24年度は+2.0%としている。つまり今後、日本でも一定のインフレが定着するということだ。このことは、ROEの構成要件である売上高利益率が緩いインフレによって押し上げられることになり、株価の上昇を促すことになる。



米国の利上げ停止はそんなに遠くない


一方、米国では5月2~3日に開催されるFOMC(アメリカ連邦公開市場委員会)で25bp(ベーシスポイント)の利上げが有力視されている。その後は、3月FOMC議事要旨にも記載のあったとおり銀行の経営不安、景気後退に配慮しつつ、これまでの金融引き締め効果を見極めるために利上げを停止すると予想されている。米国は、引き続きインフレ率が順調に低下すれば、FRBは金融緩和方向への転換時機を模索すると予想される。こうした状況のもとで市場に緩和期待が芽生えれば、米国株は底堅さを増すと予想され、それはもちろん日本株への追い風となる。



来年は日経平均3万円が底値圏


先の東証によるPBR1倍割れ企業に「改善計画」を求める要請に呼応したのかどうか、「JTC」(伝統的大企業)の代表格である大日本印刷が「ROE(自己資本利益率)10%とPBR1倍超」を目指す次期中期経営計画の基本方針を発表した。同社はEV(電気自動車)用リチウムイオン電池の包装材で世界シェアを独占する成長事業を有する企業なのだ。そんな企業がPBR1倍割れ(4月27日現在0.92倍)。おそらく他の大企業も同社の経営計画を注視しているはず。ROEをはじめとして経営指標に変化が必要と感じた大企業の組織力は侮れない。こうした企業の変化が必ず株価に必ず反映されるだろう。

米国を中心に世界経済は来年にかけて景気後退に向かっており、株価の本格上昇トレンドへの転換は恐らく、目先に控えたこの景気後退を抜けた2024年以降になるだろう。デフレ脱却した日本株は次の上げトレンドで、日経平均3万円を回復し、2024年には逆に3万円が底値圏になるような変化が今進行しているように思える。そのキッカケを作ったのはPBR でありROEなのだろう。



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