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IFA太田氏の今週のマーケットの振り返りレポート(2023年3月5日)

更新日:2023年3月13日

Weekly 3月6日


インフレ懸念と景気後退懸念のせめぎあい


新春の米株戻り相場を牽引したナスダック指数は昨年12月28日に10213ポイントで底を打ち、2月2日に12200ポイントまで上昇した。そこから頭打ち展開となり、先々週は3.3%安、11394ポイント。要因は二つ考えられる。一つは高インフレ持続による利上げ想定の上振れ、もう一つは侵攻1周年でウクライナ情勢の緊迫化。軟調地合いだが、今のところ、一気に底割れ展開していく情勢にはないと考えられる。しかし、先週はいくらか戻して2.59%高の11689ポイントで終わっている。理由は利上げ長期化観測の後退(景気減速による)が投資家の間で想定されるようになったからだ。

24日発表のインフレ指標の一つ、1月個人消費支出(PCE)価格指数が前年同月比+5.4%(前月+5.3%)、前月比+0.6%(同+0.2%)となった。食品とエネルギーを除くコア指数は+4.7%(同+4.6%)。消費支出は前月比+1.8%(市場予想+1.3%)。賃金は+0.9%、社会保障受給のインフレ調整が押し上げたと見られる。PCE価格指数は前日に10-12月期改定値が前期比年率+4.3%、速報値から0.4ポイント上方修正されていたが、それから見ても高率

の印象を与えた。1月で一旦ピークを付けたとの見方が当てはまるか、2月の数値が注目されよう。

ポジショントークなのか分からないが、JPモルガンのダイモンCEOは「米金利が6%に達する可能性がある」と述べた。24日の金利先物市場では、「9月に5.395%でピーク(従来の6月ピークからズレ込んでいる)」との見方にある。2年債利回りは一時4.840%、10年債は3.978%、昨年11月以来の水準。リフィニティブ集計のS&P500採用企業の22年第4四半期利益は前年同期比3.2%減に減益幅が拡大(エネルギー除くと7.4%減)、個別にはボーイングの787型機納入一時停止(4.8%安)も地合いを軟化させたと見られる。

ただ、市場は急速にかつ微妙に変わりつつある。28日発表の2月のコンファレンスボードの消費者信頼感指数は102と予想の108.5を下回り2か月連続で前月を下回った。おそらくこの現象を見ても株式市場は将来の景気減速、金利低下を予想し始めてきたように思える。2日は10年債金利が0.07%上昇し、4.06%だったが、金利上昇に弱いはずのナスダックは0.73%と小幅ながら上昇している。要は、CPI(消費者物価指数)など強めの数字が続けば、FRBは金利を上げざる得ない。そうなると、景気後退の確率が上がり金利低下を見込む債券買いが3日ころから出始めている。前述のCPIなどの指標は遅行指数だけに、金利が上昇すれば景気後退を懸念する見方が増えてきている。

1日発表の2月の米ISM(米供給管理協会)製造業景況感指数は47.7,分岐点50割れは4ヵ月連続(1月47.4,市場予想48.0)。リセッションに陥るほどではなく、安定化に向かっているとの見方もあるが、仕入れ価格は51.3と2か月連続で上昇、コスト上昇を表している。それを理由にこの日金利が反応し、米10年債利回りは一時昨年11月以来の4%台、2年債は07年以来の4.9%台。金利先物市場での確率では、3月FOMC利上げ幅は0.25%が依然優勢ながら0.50%確率が約30%に上昇した。独連邦統計庁発表の2月CPI(消費者物価指数)速報値は前年比+9.3%、1月+9.2%、市場予想+9.0%を上回り、独2年債利回りは一時3.215%、08年10月以来の高水準、10年債は一時2.724%、11年7月以来。ただ、IFO経済研究所は「値上げを計画する独企業は前月比で大幅減」と発表し、インフレ圧力緩和期待につながった可能性はある。

一方、3日発表の2月のISM非製造業の景況感指数は55.1と前月の55.2を下回ったものの、予想の54.5は上回った。相変わらず、景況感の境目である50を上回っており、予想以上の活動の拡大がみられている。ところが、この日の10年債利回りは前日の4%超から3.95%まで低下している。景気後退を市場は見始めているのではないだろうか。


中国動静に関心、中国景気回復期待


侵攻1周年のウクライナ情勢は、バフムト周辺の激戦が続いているが、大きな動きにはならなかった。ユーラシア・グループのイアン・ブレマー氏がロイターインタビューで「中国の介入があるかが今後の焦点」と述べたことで、中国の動向が関心を集めた。ブレマー氏の認識は「既にNATO対ロシアの様相」。

中国外務省は24日、中国の立場を示す文書を公表したが、ロシア軍の撤退を求めない和平交渉提案で顰蹙を買った。G20財務相会合ではロシア非難声明にロシアとともに反対し、共同声明を出せなかった。独シュピーゲル誌は「中国企業がロシアに自爆型ドローンを売却、製造支援か」と報じ、弾切れと見られるイランに代わって、4月までに試作機100機を納入する計画と伝えた。対ロ経済制裁強化の動きが加速し始めており、中国が何処まで巻き込まれるか、冷戦構造の東西分断認識が強まるか注目される。

全人代直前とは言え、やり過ぎではないかと思われる中国の2月製造業PMI(52.6,市場予想50.5,1月50.1)発表となった。春節期間のズレ込みで前年比実質2営業日多かったが、一気に2012年4月以来の高水準となった(13年の習主席就任以降で最高記録)。中国国家統計局に対し信頼度が高いとされる財新/S&Pグローバルでも51.6(前月49.2)と急伸しているので、元になる統計値が跳ねているものと思われる。少し前に地方政府がEV車生産を倍増近く水増ししていることが判明したが、その反省・引き締めムードはない。昨年11月からのゼロコロナ解除、何億人もの感染爆発はあっと言う間に消えたことになる。

PMIは絶対値だけで経済状況を示すものではない。1日発表の2月インドPMIは55.3(前月55.4)、ロシアは53.6(同52.6)ユーロ圏2月改定値は速報値と変わらず48.5(同48.8)、生産指数が48.9から50.1に上昇、昨年5月以来初めて上昇に転じ、サプライチェーン是正効果が出ているようだ。



全人代開催、政府と党組織の広範な再編へ


今週の5日から中国全人代が開催される。その前段となる2中総会(第20期中央委員会第2回総会)が2月26-28日に開催された。習主席は「国家機関の改革案の一部が全人代に提出される。改革は的を絞り、集中的、かつ広範になる」と表明した。李克強首相の引退(上海ロックダウンの李強氏に交代)で「経済政策を担う国務院の7割が入れ替わる」と囁かれてきたが、ここに来て、金融界も大きなターゲットとの見方が急浮上している。

習主席は就任以来、主に江沢民派・上海閥の牙城だった軍部(徐才厚ら)、公安(周永康)、地方財閥(山西省令計画一族)などを腐敗撲滅の下、次々と潰して来た。最近では、IT業界、教育界、芸能界なども槍玉に挙がった。残るは、共青団派の牙城である国務院、親米派の土壌である金融界と目され、両方に一気に取り組む可能性がある。

中国金融界は1990年代の中国工商銀行などの株式公開で急発展、中国経済の高成長を支えて来た(旧ソ連との違いの一つとされる)。リードしたのはGSを筆頭にウォール街。今でも金融要人の大半は米留学、ウォール街勤務を経た人々とされる。2015年のチャイナ・ショック以降、習路線との齟齬が指摘されていたが、屋台骨は維持してきていた。

代表は郭樹清・銀保監会主席兼人民銀党委書記。国際金融界で顔を知られた要人が一斉に追放されるとの見方が浮上している。米WSJ紙が「中国人民銀行の次期総裁候補(易綱総裁の後任)に金融コングロマリット・中信集団(CITIC)の朱鶴新氏が有力、習氏側近」と伝えている。人民銀党委書記には対米交渉も担う(劉鶴副首相の後任)何立峰氏の名前が挙がっている。共に実績はない。

22日、ブルームバーグは「国有企業に4大会計事務所の起用中止を求めた」と伝えた。データセキュリティーが表面上の理由。中国の地方財政が大幅に悪化し、医療保険制度改正で補助額7割減地域が続出、”白髪革命”と呼ばれる大衆老人デモが各地で起こっている。財源ねん出の増税も噂されている。

G20財務相・中銀総裁会合がまとまらなかった要因に、途上国債務問題がある。中国は一帯一路融資返済で、スリランカに2年先送りを認めたが、国際的債務処理機関のパリクラブ参加を拒否している。IMFも迂闊に乗り出せず、破綻国ラッシュとなる恐れがある。

何処から膿が噴出してくるか分からないが、欧米投資家の慎重姿勢が強まろう。以前にあった「中国買い+日本売り」イメージが逆転する可能性も考えられる。


国内景況感に好転の兆し


2月は分母の小さい月ではあるが、昨日発表の小売業の月次統計は高い伸び率が並んだ。前年同月比既存店ベース(一部通販含む)でユニクロ(ファーストリテイリング)が+21.3%、ユナイテッドアローズ+25.3%、ABCマート+39.8&、アダストリア+24.8%、ライトオン+13.2%、すかいらーく+38.8%など。内閣府発表の消費動向調査では2月消費者態度指数が前月比0.1ポイント上昇の31.1にとどまったのと比べ、実勢感に勢いがある。

前年2月はコロナ第6波(感染者数ピーク2/5の20642人)の渦中にあったこと、北京五輪からロシアのウクライナ侵攻で外出ムードになかった。今年は値上げ効果とインフレ観(1年後物価見通し5%超が66.8%を占める)も強まり、感染収束方向が消費行動を高めている公算がある(もっとも花粉症は酷い様だが)。28日発表の商業動態統計1月速報は前年比+6.3%、市場予想+4.0%を上回った。2月全体でも高めの伸びが見込まれる。

2日、財務省発表の10-12月期法人企業統計で目立ったのは、金融除く全産業設備投資額が前年同期比+7.7%と高めだった(9日発表予定の10-12月GDP改定値に反映される)点。経常利益は2.8%減で8四半期ぶりに減益となったが、企業の前向き行動が続く期待がある。同日、官民で設立した半導体新会社ラピダスが北海道千歳市で最先端工場建設を発表した。

ホンダの部品会社に対する来期値下げ要請が見送られると伝わっている。トヨタは見送った22年度下半期から23年度上半期には値下げ要請を再開するとの観測もあるが、円安や生産回復で余裕があると見られ、原材料高対応を進めると見られる。割安放置株の多い部品株の見直しにつながるか注目される。

9-10日に黒田総裁最後の日銀金融政策決定会合を迎える。一部にYCC修正思惑もあった様だが、先週、高田審議委員(最も財務省寄りでYCC批判派と見られていた)が「12月のYCC修正の影響を評価するには一定の時間を要する。現在は効果を見極める段階で、追加的な政策対応は念頭に置いていない」と述べた。一気に無風観が広がったと見られる。

一応、来年度予算は年度内成立予定。防衛予算関連などは新年度ダッシュが見込まれる環境にある。久々に国内要因がプラス方向に作用する可能性がある。


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