IFA太田氏の今週のマーケットの振り返りレポート(2023年8月5日)
更新日:8月19日
Weekly 8月7日

待機していたのは売り方だった。米国債格下げを主因に波乱
1日米国時間夕方、フィッチは米国外貨建て長期債格付けを「AAA」から「AAプラス」に格下げした。イエレン財務長官等が猛反発するなか、2日、米長期債が売られ、株価急落、商品市場も売られ、リスク回避相場となった。ただ、月替わり変調は円安など格下げ前から起こっていたので、格下げはやや後講釈的に見える。売り仕掛けの可能性は後講釈的だが三つ考えられる。
まず、欧米金融機関は一斉に「格下げ影響は短期的」との見方を表明した。前回格下げの2011年に比べ、米経済は好調」との見解。週末の米雇用統計前で買い方が様子見の局面を売り方が狙った可能性がある(日本株が最も顕著)。調整が長引くかどうかは雇用統計次第となるが、一時、米10年債利回りは昨年11月以来の4.122%に急上昇した10年債利回りの落ち着きが必要と考えられる。
第二のポイントは、株価下落が欧州から始まったことから見て、景気後退懸念が強まるか
どうか。欧州経済は日米に比べて脆弱と見られている。2日のユーロ圏債券市場では利回りが小幅低下(独10年債は2.525%→一時2.494%)しており、米債波乱が波及する気配にない。むしろ、商品市況下落でインフレ観が後退すれば、景況感も持ち直す可能性がある。
第三のポイントは中国情勢。市場解説では取り上げられなかったが、1日米キャタピラーの決算発表でCEOは「中国の需要鈍化は予想よりも深刻」と述べた。キャタピラーの決算自体は好調(中国ウェイトは5~10%)でNYダウの押し上げ要因となったが、建設現場の動きは鈍いとした。2日は半導体大手クアルコムが7-9月期業績下振れの可能性があると表明し、時間外株価は4.5%下落。中国株は政策期待で反発していたが、政策は小出しで失望感から2日の香港ハンセン指数は2.47%下落、南アの2.75%に次ぐ下落率となった。中国情勢からは目が離せないと思われる。
フィッチの格下げ理由には、議事堂襲撃事件や連邦債務上限問題なども取り上げている。「民主党は一段と左に、共和党は一段と右に進んでおり、政治の二極化が進み、中道路線は基本的に崩壊している」。ただ、この課題はバイデン政権発足時からある問題で、来年の大統領選に向けて混迷が続くと見られることも要因。米国が持つ脆弱性の一つであろう。
フィッチは住宅金融のファニーメイとフレディマックも格下げた。元々、米国債に連動するものだが、3日朝の東京市場オープン時に伝わり、不安心理を増幅したと見られる。3日の米住宅ローン金利は30年物固定で平均6.9%。まだ、住宅在庫不足の好環境下にあるので、直ちに失速とはならないと見られるが、何処かで重荷に転換するか注目される。
企業決算は時間外でアップルとアマゾン。アマゾンのコスト削減による収益回復が目立ち、時間外株価は7%高。アップルは市場予想を上回ったが、前日のクアルコムに続き、スマホ市場の不振色が色濃い。中国とは説明していない様だが、軟調展開が予想される。
米雇用統計発表、市場心理好転するか
先週の米市場は雇用統計待ちになっていた。正確には「雇用統計を見て、投資家がどう動くか待ち」。今回の調整は、米債の長短ギャップに注目した長期債売りに主眼があったように思う。フィッチの米国債格下げと重なり、波乱が拡大した。3日の米10年債利回りは一時4.195%、昨年11月以来の高水準。2年債は4.88%台に止まり、2-10年債利回り差は一時-69.6bpに縮まった。110~120bpに拡大していたことから見れば、是正は急ピッチだ。
元々、FRB利上げに連動する短期債利回り上昇に比べ、長期債の水準は低く、何等かの景気失速回避策が採られているのではないか、と見られていた。2年債にしても政策金利水準(5%台)に比べ低い。3月の銀行危機以降、混乱回避思惑は強まった。
4日の雇用統計は就業者増加数が18.7万人(予想は20万人)、前月は速報値の20.9万人から下方修正され18.5万人。失業率は3.5%と前月の3.6%から低下。さらに平均時給は前年比+4.4%と予想の+4.2%を上回り、インフレ鎮静化には時間がかかるとみられ利上げ継続の懸念もあり、この日の株価を抑えた。今回の雇用統計では、先行きの景気をどう見るかは非常に難しくなってきたと思っている。景気後退は回避できたとしてもインフレの鎮静化は可能なのか、インフレの要因は賃金だけではないはず。それを映したのがこの日の株式市場。NY ダウは就業者増加数が発表されると290ドル高まで上昇したが、平均時給の伸びで買いは鈍くなり売り優勢となった。結局NYダウは150ドル安で終了した。また、ドルは対ユーロ、対円で売られ買い持ちの整理が始まったようだ。筆者は、この先の米国は景気後退でなくても、成長率は比較的低いものとなるのではと思っている。
欧州中心に政情不安定は重石となるか
月替わりの調整は欧州でやや強く出た。スペイン-1.44%、ドイツ-1.26%、フランス-1.22%など。英国は-0.43%にとどまったが、総じて約1ヵ月ぶりの下落率。ユーロ圏を含め、中国、米国と景気指標(PMI)軟調が嫌気されたと解説されている。独自動車大手BMWが5.4%下落、メルセデス・ベンツ2.4%下落などが目立った。
解説には出ていないが、欧州株安にはニジェールの軍事革命が懸念されている可能性がある。ニジェールは元宗主国のフランスにウラン、金など鉱物資源を輸出してきたが、新政権は即時停止を発表した。先般、北アフリカ移民のパリ暴動があり、来年のパリ五輪開催を危ぶむ声も出ている。スウェーデンやデンマークでは”コーラン焼却”問題で揺れる。移民問題は欧州の失敗として、政情不安定化要因となっている。
ニジェールでロシアの影が伝えられ、欧州を不安定化させるロシアの工作活動との見方もある。ガードを固めている中東欧諸国より、アフリカは狙われやすい。米国の力が衰えているとの見方もある。バイデン政権はウクライナ支援に集中し、中東やアフリカへの対応で後手後手に回っているとの見方だ。
国内では、自民党が敗北した。30日投開票の仙台市議選(定数55)で、維新が新人5人全員当選、参政党も1議席獲得した。減らしたのは自民3議席、立民1議席、その他2議席。もっとも衝撃とされるのが、過去最低の34.3%にとどまった低投票率。岸田政権批判票が投票に行かなかったためと受け止められている。
現状で衆院解散。総選挙を行えば、もっと激しい雪崩現象が起こるのではないか、との見方が一段と強まり、岸田首相では解散できないとの見方も出ている。野党も野党なので、票の行き場がないとの声もある。
1日、中国国家安全省は「国民にスパイ活動への参加を奨励し、国民参加型の防衛ライン構築が必要」と表明した。7月施行の改正反スパイ法の実施と国民に(不正)告発を呼び掛けている。従業員の内部告発だけで外国人幹部が拘束されるとされ、外資系企業の技術者流出などを招いている。
イタリアなどの一帯一路脱退が囁かれるなか、世界ユニバーシティ大会に合わせて習主席は5ヵ国首脳(目玉はインドネシア)と会談。一方、台風5号に伴う豪雨禍は福建省、安徽省、河南省から北京に広がった。経済立て直しの難航度が増している。中国の政情不安は内部権力闘争のことだが、習体制は不安定化するリスクを孕んでいる。
日本企業の撤退が続いている。花王は中国の紙おむつ生産から撤退、構造改革費用600億円を計上する。一時は”爆買い”対象だったが、中国企業の品質が向上したのか、生産技術を
盗まれたのか、中国企業優先の波に押された。ツムラは4月に買収完了したばかりの中国企業を同額で売却した。地方政府との「見解の相違」としているが、中国戦略は大きく影響を受けよう。先月には神戸物産、三菱ロジスネクストなどが中国子会社を解散・清算した。
月替わり、市場ムードは変化するか
月替わりは四半期替わりほどではないが、市場ムードが変わりやすい。今回も米雇用統計辺りとみる向きが多かったが、金融情勢議論は下旬のジャクソンホール会合(24-26日)、金利攻防は次回FOMC(9月19-20日)まで間が開くので、大きなサプライズがない限り、7月下旬のイベント(米欧日同時利上げ)通過による待機勢の買い出動ムードが何処まで持続するかが焦点と思われる。
もう一つの側面は空売り勢の買い戻し圧力。米GSは31日付リポートで「ロング・ショート型ヘッジファンド、7月は売り持ち強制縮小で不振」と伝えた。アルファリターン(ベンチマークに対する超過リターン)は約-1%。「成績不振は売り持ちに起因する」。端的には、テスラ株などの空売り手仕舞いを余儀なくされたと言うことであろう。
売り残を示す統計はないので、代替指標としてVIX指数(恐怖指数)がある。31日の日経VIは18.32,ジリジリ低下しているが、米国13.63,欧州16.23より高い。米市場がVIX指数低下局面で株価急上昇となったことを考えると、日経平均3万5000円方向を目指すカギの一つと考えられる。通常は欧米に比べて低いはずの日本がなぜ高いか?強いて挙げるなら中国懸念と言う所か。ちなみに、8月3日の日経平均548円安の時、VIX指数は20.66に前日の19.51から上昇。しかし、この20.66というのは7月11日にも付けている。この日の日経平均は13円高。おそらく米格下げより、中国懸念が株価の懸念材料として持続しているのだろう。
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