IFA太田氏の今週のマーケットの振り返りレポート(2023年8月26日)
Weekly 8月28日

FRB 議長講演終了、イベント通過で株高
注目のジャクソンホールでのパウエルFRB議長発言は、「金融当局は必要に応じて追加利上げに動く用意がある」と指摘。「インフレ率はピークからは下がってきており、それは喜ばしい展開だが、なお高過ぎる」「適切と判断すれば追加利上げに動く用意がある。インフレがわれわれの目標に向かって持続的に低下していると確信できるまで、政策を景気抑制的な水準に据え置く考えだ」と述べ、タカ派的だった。
この日の米株式市場では利上げによる景気減速への懸念から株価は一時、値下がりに転じた。その後、「今後の金融政策についてデータ次第」との発言を受けて投資家のあいだでは想定したよりは金融引き締め的ではないとの受け止めから買い戻しの動きが広がり、NYダウ247ドル高で終えた。どうやら、パウエル議長の発言は、全体としては今後の経済統計をみて慎重に判断するという姿勢が感じられ、警戒感がいくらか和らいでいるようだ。
一方、NYでの円相場は、パウエル議長が「さらに利上げする用意がある」と発言したことで、日米の金利差の拡大が意識されて、円を売ってより利回りが見込めるドルを買う動きが強まり146.60円まで円は下げた。 同じ日の議長講演前の東京市場では日経平均が662円安、2.05%の下げだった。コメントを見ると、半導体関連の値嵩株の下げが大きいとのこと、案の定TOPIX の下げは0.88%にとどまっている。テクニカル分析では素人だが、下げ局面で2つの株価指数の動きに大きな違いがあるときは、「底入れの前兆」という見方があったはずだ。
後述するエヌビディアの決算内容は非常に良かったが、決算発表の翌日の24日の同社株価はほぼ変わらずの引けだった。一方、半導体指数(SOX)は3.35%の下げ。日経平均はこの半導体指数との連動性は高いが、半導体指数は年初から23日まで42.2%上昇しており(日経平均はこの日まで22.6%上昇)、パウエル議長講演を前にして利食い売りが殺到したのであろう。特段悪い材料はないので週明けから徐々に回復を見せていくと考えている。
エヌビディア効果持続せず、講演前不透明感強まる
パウエル議長講演の前日の24日の米株は23日の勢いで朝高後、ズルズルと下落基調に転じた。ジャクソンホール会合を前に米金利が再び上昇、2年債利回りは再び5%台に乗せた。インフレ抑制か、景気失速懸念か、意見が割れているが、この日は結果的に様子見姿勢を強め、戻り売りになったと思われる。
このところ米小売業界の下期見通し下方修正が相次ぎ、24日発表の衣料品小売り大手ギャップの第2四半期(5-7月)決算も市場予想を下回り、第3四半期売上高も二ケタ台前半の減少予想となった。また、フレディマックの30年物住宅ローン金利が20年超ぶりの7.2%台に乗せた。FRBの緩和姿勢転換を催促しているのかも知れない。
24日発表の8月第3週(14-18日)日本株売買動向で、海外投資家は現物株7415億円の売り越しだった(先物936億円売り越し)。銀行危機の3月3週以来の大幅売り越し(買い向かいは現物で個人3558億円、事業法人3211億円)。中国恒大ショックが主因と見られ、中国ファンドやその周辺ファンドが売り主体になっている可能性も考えられる。同時に起こった中国信託業界の危機では、中植企業集団の債務再編などで信託セクターの損失規模は380億ドル(約5.5兆円)と米GSが試算した。
米経済にも中国の影が迫っていると見られるが、24日アデエモ財務副長官は「米国には中国経済減速を乗り切る用意が整っている」と表明、逆に市場の懸念を強めた恐れがある。
新たに3つの不透明材料が出た。一つはプリコジン氏「暗殺」事件。バイデン政権は年内にもウクライナ休戦に持って行きたい意向と見られてきたが、水面下交渉に不透明感が強まった。第二はBRICSに6か国加盟(既存の中、露、印、ブラジル、南アにサウジ、UAE、エジプト、エチオピアイラン、アルゼンチン)が参加する。世界人口の47%、GDPの36%の規模。G7主導体制に対決姿勢と見られるが、実行力は不透明。ただ、資源支配力は高く、「脱石油」や先進国の「自前資源開発」は重要度を増すと考えられる。
三番目は、フクシマ処理水放出に、中国が日本の水産物輸入全面禁止を打ち出したこと。台湾(パイナップル)やフィリピン(バナナ)、ノルウェー(鮭)などで採用した手法で目新しくないが、日本を見下した行為か、国内不満を逸らすためか、要注意。塩の爆買いなどが起こり、反日運動に発展する恐れがある。一般的に、国内不満を対外摩擦に誘導する傾向がある。
尾身会長退任の報道も出た。新型コロナウイルス感染症対策分科会も事実上廃止される。一つの時代が終わった感しかないが、3年強のコロナ総括は行わないのだろうなぁとの印象。
エヌビディア好決算、8月PMI低調
ジャクソンホール会合前のリスクヘッジポジションの巻き戻しの感もなくはないが、23日の株式市場では半導体大手エヌビディアの好決算、債券市場では欧米の低調な8月PMIが押し上げ材料となった。ロシアのプリコジン氏死亡説、北朝鮮の二度目の偵察衛星失敗も加わったが、材料としては消化難と見られる。
注目されていたエヌビディアの第2四半期(5-7月)決算は市場予想を上回り、第3四半期(8-10月)の売上高予想も市場予想を上回った。新たな250億ドルの自社株買い計画も発表した。ほぼ独占供給しているAI向け半導体需要の急増、データセンター事業は141%増、ゲーム向けもアナリスト予想を小幅上回った。アナリストはAI向け半導体需要は供給を50%上回る水準で、需要超過は今後数四半期は続くとの見方。同社CEOは声明で「世界中の企業が汎用コンピューティングからアクセラレーテッド・コンピューティングや生成AIへと移行しつつある」とし、強気の見方を後押しした。
エヌビディアの株価は年初来3倍になっているが、決算発表後の時間外取引で9%高。場中は3.2%高で最高値を更新。他のテクノロジー株にも波及し、ナスダック高に貢献。ただし、翌24日は前日比変わらずだが、ほぼ安値引け。
S&Pグローバルが発表した8月PMI(総合購買担当者景気指数)は6ヵ月ぶりの低水準(7月52→50.4)、製造業とサービス業の両方で弱まった。その前に発表されたユーロ圏PMIは20年11月以来(47.0)、英PMIは21年1月以来(47.9)、コロナ禍中以来の低水準となった。ドイツPMIは20年5月以来の低水準。
これを受け、インフレ懸念が後退、9月利上げ観測も急後退した。JPモルガンはECBが9月利上げ見送り、10月に最後の0.25%利上げ(市場の12月までに追加利上げ確率は60%弱)予想とした。なお、パウエル議長講演も9月の利上げは見送られるとも見方が多い。
米10年債利回りは4.19%台に急低下(週初ピークは4.366%)、2年債は4.96%台へ5%割れ。9月利上げ確率は11.5%に低下した。
背後に中国経済不振があり、中国に影響されない成長要因への期待が高い。マクロ経済では中国影響は不可避との懸念があり、弱い指標に反応する傾向が強まる可能性がある。
中国は特異的展開、徐々に中国離れか
中国恒大は「破産申請でない」、中国政府はとくにコメントせず。米破産法15条申請に西側ルールとは異なる対応。意図は2.5兆円規模とされるドル建て社債の整理を行おうとするものと見られる。米国内不動産を処分すると見られ、中国企業が一斉に不動産売却に動けば不動産市場が要注意になる。
中国国内は処理しようにも処理できない状況と見られる。正常な資産査定が出来ず、損失額も確定できないと見られるため。恒大は工事がストップしている高層住宅を爆破しているとされ、更地の方が価値があるのかも知れない。
とにかく数字がデカい。住宅・不動産ローン市場は1300兆円、融資平台で400兆円、赤字慢性化の高速鉄道債務で120兆円、これに一帯一路の失敗案件などが圧し掛かる。”健全な”中央政府が何処まで踏み込むか不明だが、総体を概観すれば放置する公算が大きい。
つれて、景況感悪化は続くと考えられる。
8月ロイター日本企業調査(8/1~8/10実施、17日発表。回答企業256社)で、「中国市場の重要度が低下する」とした企業は19%にとどまった。変わらない69%、重要度増す13%。今年の中国成長率は5%を達成できるとした企業は7%しかおらず、景況認識は急速に悪化しているが、日本企業の優位性や現地化進展での生き残りを信用している企業がなお多い状況。現状維持を望みやすい日本企業の体質を投影していると思われる。
それでも、住設機器、複合機、高級エアコン、半導体製造装置、紙おむつ、化粧品など、
中国撤退品目は増えている。正面切って中国批判を行うと狙い撃ちされる恐れがあるので、
企業の慎重発言は常套化していると見られる。米国でキャタピラーやデュポンが決算発表
で「中国警鐘」を鳴らしており、中国影響は個別企業評価が焦点になって来るものと考え
られる。
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