IFA太田氏の今週のマーケットの振り返りレポート(2023年7月29日)
更新日:8月5日
Weekly 7月31日

日経報道で急転、NYダウ14連騰止める
日本時間28日午前2時頃と見られる日経新聞電子版の報道でドル円が円高に一気に振れるなど、米市場が急転した。28日の日銀会合で「YCC(イールド・カーブ・コントロール)修正案を議論するとし、長期金利上限は0.5%のまま据え置くが、市場動向に応じて0.5%を一定程度超えることも容認する案」などが浮上と伝えた。この通りだとすると、市場は日銀が何処まで容認するか、確かめに行くはずで、予想外の金利急騰の恐れが出て来た。
説明されることはないが、植田日銀総裁の心理面に影響する要素が二つあると見られている。一つは岸田内閣および自民党の支持率急落。強引なLGBT法成立への反発で女性が離れ(世論調査によっては女性の支持率21%)、否定はしているものの”サラリーマン増税”で増税政権のイメージが定着、文春砲第4弾で最側近・木原官房副長官の進退行き詰まりなどが要因。政治混乱が加速する公算が強まっており、既に、解散・総選挙タイミングを逸したとの見方もある。秋には再び解散風が吹き荒れると想定すれば、7月のこの時点は日銀にとって政策変更のチャンスだったと思っている。
もう一つは中国情勢。貿易や世界経済に与える影響が強まっている(韓国経済が典型的)と見られること、秦剛前外相解任など人事面を含め、情報自体が不透明で判断が難しくなっていることなどが指摘できる。
日経は「債券村」を代弁することが多いので、YCC修正を期待することが多いが、表面上語られない周辺影響をどう見るか、教えてもらいたいところだ。巧妙な植田総裁流の観測気球の可能性もなくはないが、「日経がダウ14連騰を止めた」と記憶されよう。NYダウは14連騰ならず、1897年6月以来126年ぶりの記録とはならなかった。相場はサプライズを嫌うからという声もあるが、NYダウ14連騰は米国債10年債の利回りが4%に乗ったことにある。なぜ4%を上回ったかというと、YCC修正で日本の投資家は米国債を売って、日本国債に資金を転じるという思惑を強めたようだ。
ECBは予定通りの0.25%利上げ。利上げは9会合連続だが、インフレ率は米国より高く、金利水準は4%と米国より低い。インフレ対応が遅れた訳で、その分利上げ余地を残しているとの評価だが、反面、下期の景気後退入り警戒が強まっている。ラガルド総裁は「次回会合で利上げの可能性も、一時停止の可能性もある。オープンマインド」と述べた。一応、欧州時間では
リスクヘッジ・ポジションの手仕舞いと見られる株高、ユーロ・ジワリ軟化の動きだった。
米第2四半期GDP速報は年率換算前期比+2.4%、市場予想の+1.8%を上回った。6月耐久財受注(設備投資先行指標)や週間新規失業保険申請件数は市場予想より経済好転を示した。
米経済への楽観論は持続すると見られる。
中銀ウィークの終了、日銀は政策変更へ
28日、日米欧の中央銀行による政策決定会合が終わった。中銀ウィークのトリは日銀。前述のように、27日のNY市場(日本時間28日)の日経観測記事通り、日銀はYCC(イールドカーブコントロール)の修正を決めた。長期金利の変動上限をこれまでの0.5%から実質的に1%まで広げた。28日の東京市場は一時大幅な金利上昇、円高、株安が進んだ。円は141円から138.07円まで急速に円高が進んだが、同じ日のNY市場では再び141.16円で戻ってきた。この日FRBが注視している6月のPCE(個人消費支出)が発表された。
コアが前年比+4.1%と前月の4.6%、予想の4.2%を下回ったことで利上げサイクルの終了を期待する観測が高まったため株高、リスク志向の高まりを受けて、ドル買い円売りが進んだようだ。円はこれで中銀ウィーク前の水準に戻ったことになる。とはいえ、今回の日銀の政策変更は簡単に織り込まれるものではない。YCC撤廃ともいえるが、実質的にはアベノミクス時代の超金融緩和状態の終焉と言える。この日のシカゴの日経平均先物は大証比325円高。この日経平均先物の上昇も円売りを誘ったようだ。週明けの日経平均は大幅高で始まりそうだ。
米FOMC、事前予想通りで基調変化せず
米FOMCとパウエルFRB議長会見は、「0.25%利上げ、打ち止め感出さず、年内利下げ転換せず」の事前予想通りとなった。この場合に焦点となる9月利上げ確率(金利先物市場)は22%、直前の約19%から小幅上昇した。11月の0.25%利上げ確率は32%、事前の34%から若干低下した。FRBの姿勢と言うより、市場のインフレ観が最近はあまり変わっていないことを示すと見られる。この時点でもサプライズリスクは日銀が最も大きいと見られていた。
ただ、微妙なバランスはチョットしたことで崩れる。追加0.25%利上げがどういった変化を呼び込むか、注視することになろう。ウォール街は既に「ポスト利上げ」に突入しているとブルームバーグが25日に伝えた。株式ウェイトを高め「マクロをテーマにした取引でなく個別銘柄の売買にシフト」していると伝えた。大幅利上げとそれに伴うボラティリティーは”確実に過去のもの”との見方が広がっている。
26日のNYダウは場中高安327ドルとやや乱高下含みながら13連騰、1987年以来の連騰記録(日ハム13連敗で終わったので数値的にはソロソロ観があった)。企業業績好調が支えで、この日はコカ・コーラ、軍需のゼネラル・ダイナミクス、737増産発表のボーイングなどが買われた。前日発表のマイクロソフト3.8%下落、アルファベット(グーグル)5.8%高と明暗を分けた。
半導体関連は、韓国企業の不振が明らかになり警戒感が出たと見られる。メモリー大手
のSKハイニックスは第2四半期22.8億ドルの営業赤字、市場予想を上回った。売上高は
前年同期比47%減。ハイエンドDRAMはAI関連で回復兆しもフラッシュメモリーは減産
強化を表明。パネルメーカーのLGディスプレーは5四半期連続赤字決算。赤字幅は第1四
半期からは縮小した。日本のアドバンテストは4-6月期営業益が7割減、需要回復は「来
年以降」とした。AI関連を囃すには少し早過ぎた印象。
中国が複合機技術の移転要請を突然取り下げたと26日に報じられた。昨年11月に表面化し、日本企業の中国生産縮小、高級機種の国内回帰を誘引している。中国の姿勢転換を
強調する報道だが、反スパイ法などは強化されており、情報開示の無い体制では軌道修正は難しいと見られる。そう言えば、”化粧品の成分データ提出”はどうなったのであろうか。
米議会は現在、台湾関連法案5本を協議中(台湾有事の際、中国共産党幹部の米資産差し押さえなど)。米上院は「中国技術投資で企業の報告義務化」を圧倒的多数で支持した。米
財務省高官は「国際開発金融機関、対中融資を迅速に停止すべき」と述べた。中国がもっと大胆な方向転換姿勢を示さないと、締め付けが強まると見られる。
日米欧の金融政策を終え運用姿勢強まるか
次の中央銀行の会合は9月なのでしばらく時間が空く。欧米の利上げに打ち止め感が広がるかどうかが焦点。日本は20日発表の政府見通しで、日本経済23年度実質成長率は1.5%から1.3%に引き下げ、CPIは+1.7%から+2.6%に引き上げた。輸出減速、消費拡大、設備投資増がシナリオ。日銀も28日の「経済・物価情勢展望」で今年度のコアCPIを2.5%(4月の予想では1.6%)通しを発表した。24年度は1.9%(同2.0%)、25年度は1.6%(同1.6%)と数値上は政府、日銀ともに物価安定の目標とする2%付近が続くとみている。
株式市場では機関投資家の需給調整一巡が注目される。米市場では24日取引開始前に
ナスダック100指数のリバランス(大型ハイテク株の優位性低下)が行われた。JPモル
ガンによると双方向の取引は600億ドルに達したようだ。先々週のナスダック軟調に影響していた可能性がある。日本市場では21日発表の7月第2週(10-14日)売買動向で信託銀行が現物+先物で1兆1648億円の売り越しだった。6月末基準でのリバランスの影響が出ていたと見られ、その一巡が徐々に見込まれる。
決算ラリーが本格化している。21日は台湾TSMC(世界的な半導体受託生産企業)の3%下落から半導体関連が下落した。通年減収見通しにアリゾナ新工場稼働を25年に先送りしたことが響いた。ただ、TSMCの在庫調整は第4四半期で終了、24年は回復に向かうとの見通しは変わっていない。押し目狙いとの攻防に向かうと見られる。
23日から日本の半導体装置などの輸出規制が発動した。17日米半導体業界はバイデン政権高官と会合を開き、対中規制を協議した。対中半導体規制の実効度を巡っての攻防が展開
されそうだ。ロイターによると24日はNXPセミコンダクターズ(昨年の中国比率36%)、
25日はテキサス・インスツルメンツ(TI、同50%)、ガラスメーカー・コーニング(同
30%)などが決算発表予定。日本企業の決算発表のピークは8月10日、500社強が発表予定。焦点は中国影響の外需動向と見られている。
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